2/20-2/24にMercari Tech Researchのメンバーとして、中国のシリコンバレーと呼ばれる深センと広州を訪問してきました。興奮冷めやらぬうちにレポートします。
テックリサーチとは?
メルカリで去年から始まった施策です。諸外国を訪問し、その国のITサービスや暮らしを調査したり、現地テックコミュニティと交流します。調査結果は社内での報告会やテックリサーチナイトで発表し、そこで得た知見や、現地コミュニティとの繋がりをプロダクト企画/開発に活かすというのが主な目的です。
訪問する国に特に制約はないのですが、やはりITによる発展が著しい国に行く傾向が強いです。これまでに中国以外だとエストニア、インド、フィンランド、シンガポール、アメリカ(ニューヨーク)などのリサーチ実績があります。
今回自分が深センを選んだ理由はずばり深センが中国のシリコンバレーと呼ばれているからです。シリコンバレー(の近く)に住む自分としては、どんな違いがあるのかをこの目で確かめたいという思いがありました。
あと、このブログを少し前に読んで、実際のところどうなっているのか知りたいと思っていたこともあります。
このレポートでは
について書きます。この記事は前編です。
深センとは
さて、まずは深センという街について簡単に説明します。深センは香港の北にある経済特区です。
深センについての正確な情報は深センの公式ウェブサイトを見るのがよいかと思いますが、ここではざっくりとした情報をWikipedia(英語)から抽出します。曰く、
- 人口は2017年に1252万人以上(国内の移民が多く人数カウントには諸説ある)
- 1980年に中国最初の経済特区になり、2017年の国内成長率は北京、上海について3位(2000年代は16%以上の成長率、2012年以降も10%以上)
- 製造会社やハイテク産業が数多くあり、HuaweiやTencentといった中国を代表するIT企業のHQがある
という中国の経済成長の原動力となっている街です。なお、「中国のシリコンバレー」という表現はどこからでてきたのかはっきりわからないのですがWikipediaの参考文献として挙げられていた2014年のGuardianの記事では Inside Shenzhen: China's Silicon Valley
として深センが紹介されています。
ちなみに25都市と姉妹都市になっており、日本では筑波市と姉妹都市だそうです。
街の見どころ
巨大電気街
華強北(华强北Huaqiangbei)と呼ばれる地域にある電気街です。巨大な電化店が大通りに軒を連ね、コンピュータ、スマホ、ドローンからマイニングコンピュータ、バルクの電子部品までなんでもかんでも売ってます。
A drone demo at the Huaqiangbei's biggest mall
— Tomoaki Imai (@tomoaki_imai) 2018年2月22日
華強北という電気街の電機デパートで店員に「このドローン飛ぶの?」と聞いたらその場で箱を開けて飛ばしてくれた#MTRSZX pic.twitter.com/RM5q5Kvb0U
Appleは正規店はないですがこんな感じで部品が沢山売ってます。これを元に組み立てるようです。
奥に行くほどディープなお店が沢山ありました。今回は春節直後なので、残念ながら多くのお店はしまってました。
Tencentを始めとした巨大ビル群
深センに来て一番驚いたことはとにかくビルがめちゃくちゃ建っているということです。とにかくデカイし、圧倒されます。今もどんどん建てられていて、経済成長の勢いを感じます。
どこの建物もだいたい立派なデパートが入っている
滞在したところ
香港との玄関口にほど近い、老街Laojieというところに滞在しました。ここにあるHyatt PlaceはWifiが香港のAPを経由しているためグレートファイヤーウォールの影響を受けず、Google, Facebook問題なくアクセスできます。
老街を東京で例えるなら御徒町、上野といったところでしょうか。若者向けのお店が多く、道路に面した露天も結構あったりして、とても活気があります。10代-20代前半の若者がとても多いです。
物価
食べ物くらいしか比較できないですが、感覚的にはベイエリアよりははるかに安く、日本と同じか少し安いくらいでしょうか。たとえば屋台では20元(日本円で340円位)でご飯が食べられます。Xiaomiの10000mAの携帯バッテリーは150元(2500円位)でした。
深センで体験したサービス
現地ではいくつかの日本やアメリカではあまりみないサービスを体験しました。主だったものを紹介したいと思います。
QRコードによる電子決済
深センではあらゆるサービスがQRコードによる電子決済で行われています。文字通り"あらゆるサービス"です。
切符もQRコードで購入
おばちゃんが荷車を引いて売るくだものですらQRコードで決済
電子決済はAlibabaによるAliPay(支付宝)とTencentが提供するWeChat Payment(weixin微信支付)が2大サービスです。いずれも銀行口座と紐つけてチャージし、決済を行うことが可能です。 両決済の違いとしては
- AliPay
元々決済からスタートしたこともあり、給与等にも利用される。店舗利用で割引などがある。 - WeChat Payment
チャットサービスWeChatの一機能。Chatで気軽にお金を送金できる。
各決済の利用頻度については、何人かの中国人に聞いたところ、Alipayでの決済は割引があるケースが多いからAlipayの方が多いかもとのことでした。
AliPayが中国の銀行口座と紐ついていないと利用できないため、自分はWeChatしか利用できませんでした。 QRコードによる決済を試した感想としては
- 全ての決済履歴がチャットスレッドとして参照できるので非常に使いやすい
- QRコードを読み取り自分で金額を入れる行為というのはお金を払っている感じがして良い体験
- たまにアプリがバグって決済が出来ないことがある(あるいは決済が完了したか不明になることがある)
同行した知人もアプリが死んでしまい復活させるまで10分間ほど悪戦苦闘していました。 たまに発生するらしく、都度カスタマーサービスに連絡するそうです。 QRコードはお店側も端末が不要でローコストで導入できます。一方で別のQRコードを貼り付けてお金を取る詐欺なども発生しているそうです。
セルフサービスストア
アメリカでもAmazonGoのような無人店舗が最近スタートしましたが、深センではそのようなお店がいくつもあります。そのうちの一つであるWellGoというサービスを体験しました。
QRコードがロックになっていて、一人ずつお店に入店できます。
決済時は二重扉の小部屋に入って、そこで商品につけられたRFIDがセンサーで読み取られ決済が自動完了します。
不正が起こらない確実なシステムですが、いかんせん一人ずつしか入れないのは効率が悪いしスケールしないよなぁという感想。商品を手に取る必要がないのなら全部自販機でも良い気がしなくもなかったです。
シェアサイクル
シェアサイクルは深センでここ2年ほどで爆発的に流行っているサービスです。スマホがキーとなり、そこかしこに置かれた自転車のQRコード読み取って解錠。時間単位でレンタルできます。自転車はGPSで管理されており、どこに何台あるかがすぐわかります。
Mobike と Ofo が中国における2大シェアサイクルサービスです。2つの違いとしては
Mobike
年配層に利用者多い。太陽電池発電機能や全てロックを全てアプリで管理するなどハードウェア部分が強い。Ofo
元々学内での自転車サービスとしてスタートしたため、学生、若者に利用者が多い。自転車は比較的軽い作り。ロック等は番号入力タイプのものもある。
といったところですが、正直ほとんど使い勝手に違いはありません。
誰もが利用している大変便利なサービスですが、一方で幾つかの課題を抱えているそうです。
シェアサイクルの課題
- 放置自転車の管理
深センだけでOfoの自転車は300万台あり、地下などに放置された自転車や壊された自転車が街の景観や交通に影響を与えているそうです。実際、道路をふさぐ自転車を頻繁にみかけました。
急激な発展は一方で課題も引き起こしている。サイクルシェアの放置自転車は街の景観を悪くしている。
— Tomoaki Imai (@tomoaki_imai) 2018年2月22日
サイクルシェア大手のofoだけで深センに300万台あり、放置自転車に対処するのは限度があるとのこと。駐車場所を限定するなどの取組を検討しているらしい。 #MTRSZX pic.twitter.com/IlFr8fdk0b
Ofoのエンジニアによると、GPSやタグ情報を利用したジオフェンスを設定することで解決しようとしているそうです。
- 収益
これは経営的な観点からの課題です。現在はタダ同然の値段でサービス提供されています。理由は中国では格安のサービスでないと利用されない、という背景があるようです。Ofoは一回の乗車で1元だが次回使えるクーポンが毎回ついてきました。収益力に乏しく、いくつかのシェアサイクルサービスはすでに廃業しています。
シェアサイクルのOfoは一回の乗車が1元程度と格安なのに毎回2元のクーポンがついてくるので実質無料で乗れる。中国では無料か安くないと使われないので、今後は収益性が課題とのこと。今は広告等で稼いでいるらしい。#MTRSZX pic.twitter.com/oiCxUsOXQB
— Tomoaki Imai (@tomoaki_imai) 2018年2月23日
モバイルインフラ
ライフラインとなっているスマホの電源が無くなりそうな時、深センに住む人はどうするかご存知ですか。実は深センのいたるお店やホテルに小箱サイズの充電器マシンが設置されており、充電器がレンタルできます。3時間以内なら無料で、どこのマシンに返してもOK。
全てがモバイルで完結できるがゆえに、モバイルのベイシックインカムが整っているんだなと感じました。
街中のあらゆるところに貸し充電池マシンが置いてある。アプリで借りれて何処でも返すことが出来る。驚いたのはレンタルが3時間まで無料。モバイル系企業が出資してるらしい。スマホで全てが完結する深センですが、スマホ的ベイシックインカムが提供されてるようです。 #MTRSZX pic.twitter.com/dt92JXJ5XF
— Tomoaki Imai (@tomoaki_imai) 2018年2月22日
まとめ その1. 独自のイノベーションが起きる街
深センでは他の都市では例をみないイノベーションが起きていました。またイノベーションが進んだ結果新たな課題も発生し、ではそれにどうやって取り組んでいくかというフェーズになっていました。
このようなイノベーションは、中国が外資を締め出す規制の厳しさがある一方で、適度にゆるい部分があるところが起因しているのではないでしょうか。企業が街を実験台にして大きなことにチャレンジし試行錯誤できるところが他の国と異なる部分なのかなと思います。
また、中国の独特の事情によりイノベーションが起きているので、これらのプロダクトはそのまま日本やアメリカで適用できるものではなさそうです。
例えばQRコード決済が定着したのも、中国でクレジットカードを持たない人が多い&WeChatなどモバイルアプリが浸透していたことに端を発しています。日本やアメリカのようにクレカやNFC技術が発達した地域でならわざわざスマホのアプリを開いてQRコードで読み取るよりも、スマホをかざして決済できる方が便利なのではないかと感じました。
無人店舗についても、またとりあえず作ってみた、という感じで、スケーラビリティや利便性の観点で、日本で出した場合とても受け入れられないだろうと考えました。
しかしながらこういう実験レベルでもとにかくリリースして、実社会で検証することでどんどん進化しているのが今の中国なのです。
後編では実際に会社を訪問したり、現地の人と話したりして垣間見えた、中国のシリコンバレーの実態について書きます。